2011年7月4日月曜日

うりんぼ

駅の階段で わたしはないていた。動けないでいた。
震えてた。
たくさんの人が 上下する階段のはじっこで 恐ろしさでかたまっていた。

何日か前、わたしは生まれた。広いおうちにいる、お母さんのおなかから ふたごの弟と一緒に生まれた。
母さんは、わたしと弟をかわるがわるなめて、おっぱいをいっぱい飲ませてくれた。おなかいっぱいで、眠る 母さんのそばは あったかくて やわらかくて・・・とっても気持ちよかったけど・・・・ある日わたしと弟はダンボール箱に入れられ、駅の近くの草むらに捨てられた。
わたしは 母さんをさがしに 箱を出て駅の階段で動けなくなったんだ。

いきなり女の子の声がした。
「わあーー かわいい!」
そしてわたしは抱きあげられて 女の子の家に連れて行かれた。次々出てきた おうちの人はわたしを見て、
「あらっ かわいい ねこちゃん」
「アネキ、そのミーミーいってるやつどうしたん?」
「おや、かわそうに 震えて おなかがすいてるんだ。」
おうちの人はわたしに、お皿にいれたミルクをくれた。

  カアサン ドウシテイルカナ
  オトウトハ オナカスカセテイルダロウナ

わたしは背中の模様で「うりんぼ」と名付けられ、その
家で飼われることになった。なんとか飢え死にはまぬがれたみたいだった。

わたしを拾ってくれた恩人はカスミちゃん16才。
その弟 わたしをいじめかわいがり、ワタル14才。
おばあちゃんは、わたしの食事がかりになった。
一番好きなのは この家の おばちゃん。
のみとり、うんちの世話をしてくれ いいこ いいこ
と なでなでしてくれる。この人は母さんみたいだ。

わたしは この家でぐんぐん大きくなった。

  カアサン ドウシテイルカナ
  オトウトハ ヤセホソッテイナイカナ

爪とぎするので、障子もふすまもボロボロになった
けど、みんな
「うりんぼか しかたないな」と笑うだけ
テーブルの花びんを割ったときも
「うりんぼか しかたないな。」
一日中昼寝してても
「うりんぼか なまけものだな。」
うりんぼ!と呼ばれ みゃーとでも返事をすると
「うりんぼは 天才だ!」と言われる。
けっこう わがままで 幸せに暮らしている。

  カアサン ドウシテイルカナ
  オトウトハ ドコカニイルノダロウカ

春が過ぎ、夏が来て、秋、 冬、・・・
あれから4年がたった。

ある日スーパーへのお買いものに、車に乗せてもらった。駅の近くのスーパーでドアが開いた時、ちょっと
そのあたりを散歩しょうと 飛び出た。
スーパーの裏口には、段ボールや生ごみやいろんな
ものがあって、面白い。きょろきょろしていたその時。
一匹の猫が現れた。背中にいのししの子みたいな模様がある。
「みゃー おまえこの辺の猫じゃないな?」
「あなた いつか 会ったことある・・?」
「みゃーもしかして?」
「もしかして・・・みゃー」
ああそれは 長い間 忘れられずにいたふたごの
弟だった。
「おねえちゃん、元気だった?」
「ずーっと元気だったよ。人間に飼われているの。」
「ぼくは、きままに野良猫してるんだ。」
「毎日 食べられるの?」
「食べられない時もあるよ。でもこうやって生きてる。」
それから わたしたちはかくれんぼをしたり、かけっこ
をしたり・・・遊んではしゃべり、しゃべっては遊んだ。
弟は、人間は恐ろしいと言い、わたしは優しいと言い返した。足の裏に感じる土の感触の気持ちいいこと!
木登りも楽しかった。どんどん登ると気持ちよい風を感じた。
その時だった。遠くでわたしを呼ぶ声がした。
「うりんぼーー」
「うりんぼーー」さがしている。まいごになったと思って。

「おねえちゃん ここで暮らそうよ。」
わたしは やせた弟をじっと見つめた。涙があふれて
やがて弟はみえなくなった・・・
わたしは4年間、弟のことを心配してきたが、それは
あの人たちと暮らしてきた4年間だった。
「さようなら・・」後ろは振り向かないで声のするほうへ
走って行った。
わたしは はしりながら 思った
食べるものがなくて、こわい人間しか知らなくて、雨の日寝るところがなくても 生き生きと、自由に暮らせる
幸せもあるんだと。

  オトウトハ シアワセダッタヨ カアサン