2010年11月27日土曜日

友情

そこは、うっそうと木々が生い茂る、少年の家の近くの
森だった。少年は虫取り網と虫籠を持って、地面ばかり 気にして歩いていた。

夏休みに入って間もない、青空に雲ひとつない 暑い朝だったが、森の中は木漏れ日が涼しく、優しく少年を導いてくれた。

「あった!」
少年がさがしていた 小さな穴が無数にあいた場所が。
見上げたそばの木の上に 今日生まれたせみがいっぱいしがみついていた。
少年はもっている網で捕獲し、ずるずると下にすべらせ、簡単に虫かごへいれることができた。

あっと言う間に 虫かごが蝉でいっぱいになると、少年は網をほり出したまま、ポケットの小銭を確認すると
すたすたと バス停に向かって歩きだした。

バスを待つあいだ 晴れ渡った空を見上げて、少年はつぶやいた。
「ゆうくん どうしてるかな・・・」

同級生の ゆうくんは、1学期の中ごろから 病院に入院して学校にこれなくなっていた。
先生は
「まだ、子どもは お見舞いにいっちゃあいけないんだ・」
「みんなで、お手紙書こう。」
ゆうくん 読んでくれたのかな。


ゆうくんは、これ以上ない笑顔で少年を迎えてくれた。
「おっ。」
「よっ。」
「セミか?」
「うん、いまとってきた。」
「すごいな。いっぱいだ。ありがとう。」
「いや、 うん。」
二人は黙って蝉を見ていた。
どれぐらい たっただろうか・・・いきなり
「み~ん・・み~ん」
と鳴き出して 二人は飛びあがった。
ここは病院だ。
「まずい!」二人は屋上から逃がしてやることにした。

日差しは暑いが、風がよくわたる病院の屋上から、少年たちの住む町も小学校も遠くに見えた。
ゆうくんは言った。
「学校が見えるだろ・・・2学期から行けるかなあ・・」
「行けるに 決まってんだろ。2学期は音楽会もあるし
 ゆうくんの ピアノなしじゃみんな困るよ。
 ぜったい いけるって。」
なんの根拠もないのに、少年は大きな声で言った。
「じゃ そろそろ・・」
「うん・・・」
二人が虫籠を開けると、蝉たちはてんでに飛び立って行った。

病室に帰ると、ゆうくんのお母さんがいて、少年に何度もお礼を言い、お昼までごちそうになった。
昼ごはんのあと、教科書の進み具合を教えたり、二人で漫画をかいたりして過ごした。


ふと気がつくと夕方だった。
少年は「また来るから・・」とゆうくんに告げ帰って行った。

家に帰るとまわりが 騒がしい。近所の人やパトカーまで来ている。
少年は みんなを心配させたのだったが、友だちの見舞いに行ったことがわかると三々五々帰って行った。

やがて、母親と父親と三人になると、母親は聞いた。
「なんで、急に 病院に行ったの?」
「セミは7日ぐらいしか 生きられないから 生まれたばかりのを見せてあげたかったんだ。ゆうくんずっと病院
だから・・・」
両親たちは 息子の友だちの病名を知っていた。

「あんたって子は・・・」
母親が少年を抱きしめ、その二人を父親が抱きしめた。
空には いつか満天の星がでていた。

ゆうくんは もっと大きな病院に転院し学校にはもどってこなかった。

毎年 夏 蝉が鳴くと少年は思い出す。


「ゆうくん  どうしているかな・・・」